
本記事では、選ばれしファイナリスト7名の一人、干場健太朗さんをご紹介します。

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道具を”使い捨て”から”長く、使い切る”文化に。
石川県能登半島から挑戦するのが、ふくべ鍛冶の干場健太朗さんです。ふくべ鍛冶は地域に必要とされる包丁やクワ、カマ、ナタなどの製造や修理をしている100年以上続く、老舗の鍛冶屋さんです。
大学卒業後、地元の町役場に就職した干場さん、母の病死をきっかけに父が廃業を選択したことに大きな疑問を抱きました。地域に一つしかなかった鍛冶屋さん。これが無くなった時、農業や漁業の現場はきっと困るに違いない。まだまだ求められる存在なのに、何かできることはないか。そう考えた干場さんは翌年に役場をやめて家業を継ぐ決心をしたのです。
能登半島では輪島塗が代表されるように、古くからものを大切に使い、最後まで使い切る文化があるのです。そこを強みとし、能登半島を『道具のメンテナンスのメッカ』にしようと考えました。能登半島を中心として、全国どこからでも気軽に職人さんにアクセスできるようにすることで、一般家庭でも道具を長く大切に使う文化に移行することがこのプロジェクトを通した目的です。

ネット版「かじやの窓口」に至った経緯
能登で商店や個人宅などを車で回る鍛冶屋の移動販売をしていたときのことです。70代のおばあちゃんの、農作業に使うくわを直してあげると、背筋の筋肉が鍛えられ腰がだんだんと真っ直ぐに年々元気になっていったのです。包丁を研いであげると、切れ味抜群の包丁で料理を楽しみながら、丁寧に生活をする人が増えました。こうしたことから人から感謝されることが多くなったのです。
また、海女漁が盛んな能登半島では、サザエの産地でもあります。今までは海で取れたサザエの硬い殻を金槌で割って身を取り出し、飛び散った殻の危険な破片を身から取り除くという非常に大変な手間をかけていました。そこで、干場さんと地元鮮魚店とが共同で開発した「サザエ開け」は生のサザエでも4、5秒で尻尾までスルッと簡単に出ると大好評で、サザエの加工品作りにも大きく貢献し、産業の効率化につながりました。
そのような経験からどうしたらもっと多くのお客様に喜んでもらえるか、笑顔になってもらえるか、さらには地方で稼ぎ雇用を増やす仕組みはできないのか考えるようになりました。全国的に見ると、農業や漁業の機械化が進んできており、鍛冶屋がどんどん少なくなってきています。そこで、何らかの手段で全国地域に繋がることができれば、道具の修理の幅も広がるのではないかと考え、ネット上で包丁研ぎをオーダーできる、ネット版「かじやの窓口」を思いついたのです。

「ポチっ」としたら「スパっ」とした包丁が戻ってくるサービス!
より多くの課題を解決するためにまず始めたことが、包丁研ぎ宅配サービス「ポチスパ」でした。包丁を入れて郵便ポストに入れるだけで、職人さんが研いだ包丁が戻ってくるサービスです。「包丁を箱に入れて投函だなんて、危なくないの?」と思う方もきっと多いと思います。けれどもこの箱は包丁が完全に固定され、外に飛び出ないような仕組みで、これまでもこのサービスで事故が起こったことはありませんでした。この魔法の箱では「包丁=危ない」の概念をも覆す可能性を秘めていると言えるでしょう。
コロナ禍でおうちで料理をする時間も増えている中で、包丁が切れにくいとイライラしてしまいますよね。さらには包丁研ぎに出すにも、研ぎ屋さんを見つけて自分で持ち歩かなければならない手間があります。「ポチスパ」ではその課題を解決することができるのです。
これまで、年間10,000本の修理を超える受注を得てきましたが、これからも需要が伸びることを見据えて、現在はより質の高さを目指すための「職人の養成」とひとりひとりのお客様に素早く対応できるための「自動化」に取り組んでいます。

日本のものづくり文化に誇りを。
日本の包丁や道具は、海外からは機能性、品質、デザイン共に非常に高く評価されている誇るべきものです。そのため日本から輸入したり、お土産に持って帰ったりする人も多いのですが、その後のメンテナンス方法がわからずに”宝の持ち腐れ状態”になっている人が少なくありません。
干場さんは能登半島から、「ものを長く、大切にする心」を通じて日本を守りたい!そして、皆さんの生活を豊かにする鍛冶屋をもっと身近に感じて欲しい、そんな思いで国内外問わず、鍛冶屋機能を守り道具の修理の最先端に挑戦していきます。
記事作成者:事務局 樽本理子